甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)
概要
- 首ののどぼとけの下あたりに甲状腺という臓器があり、そこで甲状腺ホルモンを産生しています。
- 甲状腺ホルモンが多く出過ぎている状態を医学用語で甲状腺機能亢進症と言います。
- 甲状腺ホルモンは体のエネルギーをどのようにためたり使うかについてを調節しています。
- 甲状腺機能亢進症は疲労感を感じたり、いらいらする、震えがでる、脈が速くなる、普段通り食事をしているのに体重が減る、などの症状が出ます。
- 診察では首にある甲状腺、心音などの聴診、震えや腱反射などを確認し、採血で甲状腺機能を確認し、甲状腺機能亢進症の診断とその原因となるものを明らかにします。
甲状腺機能亢進症を起こす病気
- バセドウ病
- 自己免疫的(自分自身を攻撃する)機序によるTSH受容体の刺激がおこり甲状腺ホルモンが過剰に産生されます
- 無痛性甲状腺炎
- 自己免疫的(自分自身を攻撃する)機序によって甲状腺が破壊されて甲状腺ホルモンが過剰に産生されます
- 亜急性甲状腺炎
- ウイルス感染によって甲状腺に炎症が起きます。そのため甲状腺が腫れる、痛いなどの症状と一時的に甲状腺ホルモンが過剰に放出されます。
- 他にも、中毒性結節性甲状腺腫、Plummer病、薬剤性甲状腺炎といったものも甲状腺機能亢進症をおこします(あまりおおくありません)。
治療
- 当院で治療しコントロールすることが多いバセドウ病を中心に説明します。
バセドウ病の治療の目標
- 甲状腺中毒症状の消失および甲状腺機能の正常化
- 内服なしで甲状腺機能が正常に保たれる「寛解状態」
治療の種類
- 薬物療法
- メリット
- ほとんど全ての外来で施行可能
- 放射線や手術のリスクがない
- 治療によって起こりうる甲状腺機能低下がない
- デメリット
- 内服の副作用の可能性
- 薬によっては妊娠中に内服しにくいものがある
- 2年間で約8割程度が寛解にいたるが治療終了1年後で再発することもある。
- メリット
- 131I内服療法
- 抗甲状腺薬が副作用で内服できない時、内服しても寛解に至らない時に選択
- 外科手術治療
- 甲状腺腫が大きい時、甲状腺がんの合併時、内服できない時などに選択します。
甲状腺機能亢進症の症状に対する治療
- 動悸などの症状に対して、βブロッカーという薬を使用します。
治療の実際
- 甲状腺の機能を抑える内服薬には2種類ありますが、効果や知見の多さから当院ではチアマゾール(メルカゾール®)を第一に使用します。
- 内服の効果を良くすること、再発防止、合併症の観点から禁煙を勧めています。
- 食事については特に制限はしていません。
- 以前は海藻などのとりすぎは内服治療による甲状腺機能の正常化をおくらせたり、治療後の再発の原因との理由から海藻類の摂取を避けるべきと言う考え方もあったようですが、普段の量を守れば特に制限する必要はありません。
- 副作用のチェック
- かゆみは割と多い症状です。
- 肝逸脱酵素(採血でのASTやALTといったもの)の上昇
- まれですが、無顆粒球症(白血球の一部が少なくなる状態で発熱や喉が痛いなどの症状では注意が必要です)、多発性関節炎、重症肝障害、MPO-ANCA関連血管炎症候群など
治療の終了
- 治療開始3ヶ月以降は月に1回程度の割合で採血で甲状腺機能などを測定します。
- 甲状腺機能のうち、TSHは最初の数ヶ月は抑制されていることが多いので、FT4が正常化したら抗甲状腺薬を減量します。
- TSHが測定できるようになったらTSHが正常範囲に入ることを目標にを減量します。
- チアマゾール(メルカゾール®)の投与量が1回5mg1日1回になったらしばらく続けます。
- その後2,3ヶ月毎に甲状腺機能(TSH,FT4)が正常位置にあることを確認していきます。
- その後に隔日1回内服とします。これでも半年以上甲状腺機能(TSH,FT4)やTSH受容体抗体(TRAb)を参考にしながら中止可能を検討します。
- 再発の可能性もあるため内服が終了した後も定期的に甲状腺機能(TSH,FT4)を測定します。(現時点で再発を予測する確立した手段はありません)
- 甲状腺薬を1~2年間続けた時点で、休薬できる見通した立たない場合はそのまま甲状腺薬を継続するか他の治療法に切り替えるかを相談します。
他院への紹介について
以下の方は専門的な治療が必要となるため、近隣の名古屋第二赤十字病院、聖霊病院などに紹介をしています。
- 内服治療以外を受けるかた
- 妊婦、授乳婦、妊娠希望のバセドウ病のかた
- 小児のバセドウ病のかた
- 甲状腺中毒症状がコントロール困難なかた
参考文献
- バセドウ病治療ガイドライン2011
- 甲状腺疾患ガイドライン2013
- Common Diseaseの診療ガイドライン
- Up to date Patient education: Hyperthyroidism (overactive thyroid) (The Basics)